部屋
引越す直前まで暮らしていた私の部屋は
今はもうありません。
西向きで夏は苦しいほど暑い部屋でした。
その分、晴天の冬の午後はポカポカ。
引越し屋さんが荷物を全部運んで行った後
ガラーンとした部屋で最後に写真を撮り
ました。
暮らしていた時はなんて古いのだろう
と思いましたが、何もなくなってみると
そんなに悪くないような気がしているから
不思議でした。
春の光が当たる中でこの部屋で過ごした
ことを少しだけ思い起こして過ごしました。
窓の外にあったクスノキにヤマバトがよく
巣を作っていたこと。
台風が来ると屋根が飛ばされるんではないか
と怯えながら過ごしたこと。
隣にあった雑木林が次々と切られてしまった
こと。
6畳の部屋で経験した小さな日常の数々。
古ぼけた昭和の家は私が引越してすぐ壊さ
れたようです。
今では全然別の家が建ち、知らない人が
住んでいます。
でも私の心の中のこの部屋はいつまでも
壊れることなく存在する。
私が私の記憶を失う時まで。