水鏡
晴天の朝ほど日の出時の気温は、低くなりま
す。
まして風もない田んぼは、鏡のような水面を
保って太陽が、山の向こうから昇って来るの
を静かに待っています。
薄暗い中、散歩に出て行く私に母は怖くない
のか?と尋ねます。その度に怖くない、と答
えます。強がっているわけではなく、正直な
気持ちです。今日も静かで美しい光景に出会
えると思うとワクワクしながら歩いてしまい
ます。
日の出の時刻は、夏至に向かって日に日に早
くなっています。夜と朝の間の曖昧な時間は
私にとって不思議と落ち着くのです。刻々と
色調を変えていく周囲の風景の一瞬一瞬が美
しく保存しておきたいと思うのですが、それ
は無理な話。写真に撮ってみても後から見返
すともっと美しかったはず、と失望するばか
りです。
美しい田んぼの水鏡は、年々太陽光パネルに
とって代られています。太陽光から作られる
電気は確かにある面ではエコなエネルギーで
す。でも、多分10年ほどしたらパネルは交換
しなければならなくなるでしょう。そうなっ
た時、膨大な量の産業廃棄物の処理にどれほ
どのエネルギーを必要するのか私は知りませ
ん。
水鏡に映る太陽と後ろに並ぶパネルを見なが
ら将来の重荷に心が揺れるのです。